この時期に想う

毎年夏の暑さを感じるこの季節になると決まって読む本がある。決まって、と言っても特定の本ではなく、太平洋戦争に関する本を何かしら読むということ。靖国へ足を運んでもいい。こういう事を書くとすぐに右だなんだと言いたがる輩がいるが、私は戦争を知らない世代として積極的に知ろうとする義務があり、後世に伝えなければと感じているだけである。特定の思想に心酔したり、特定の人物を崇拝するつもりはさらさら無い。ただ知らなければいけない。と、どこかで感じているのだ。恐らく、父(既に他界)母に戦時下の体験があり、その話しをちょっとした時に聞いていたからかもしれない。自分も子を持つ親となり、親の気持ちの欠片が分かりはじめると、複雑な想いにかられる。

ちょうど今、長男が5歳、次男が3歳。経済が低迷しているだ何だといった問題はあったかもしれないが、何の不自由もない平和な日本に生まれて来た彼等。ささやかながら雨風を凌ぐ家があり、自家用車があり、地デジに対応してこそいないがカラーテレビがあり、レンジ、電話、ファクシミリ、インターネット、ゲーム、山のようなおもちゃ、教育・・・何でも揃っている。逆を言えばそんな時代に子供を授かった夫婦。自分が生まれた時代、3歳、5歳の時代はどうだったのか? もっと言えば自分の父母はどのような時代に生まれ、どのような時代に3歳、5歳を生きて来たのだろうか。

冷静に考えてみると、IT革命以前に生まれた私と妻は、携帯電話、インターネットこそ最近になって手にしたツールとなるが、それ以外は今の息子達と大して変わらない状況下に育って来たと言える。家庭ごとの経済的な事情で電子レンジがなかったり、自家用車がなかったりという差は今よりもあったかもしれないが、その程度である。世界的な混乱はいろいろとあったが、日本国内が異常に緊迫した状況はほとんどなかった。緊迫した状況と言えば、今の方が余程緊迫しているだろう。

しかし、私の父母を見てみると随分状況が違う。

父は第一次世界大戦終戦から15年の後、まだその名残が世界中に残っている不安な時代に生まれたのである。世界恐慌もやれやれの1933年、ドイツではヒトラーが首相に就任し、アメリカではルーズベルトが大統領に就任した年だ(ニューディール政策!)。正にそんな時代に産声をあげていたということになる。それでも戦後の復興に大きな期待をしていた時代だっただろう。しかし3歳になる頃には二・二六事件が勃発し、広田弘毅内閣が成立する。世界に目を向ければスペイン内乱、スターリンの大粛正、西安事件・・・いかにもな時代。4歳になると盧溝橋事件が勃発し、日中戦争に突入。ちなみに日中戦争は父が12歳になるまで続くのである。5歳になると日本では国家総動員法が施行されるほか、ナチス・ドイツの動きも活発になり、この年(1938年)オーストリアを併合。ユダヤ人に対する大襲撃、いわゆる「水晶の夜」もこの年だ。

母は父から8年の後、1941年に生まれる。それはそれは大変な年。ナチス・ドイツソ連に宣戦布告(バルバロッサ作戦)するは、チトーのパルチザンはドイツ軍にゲリラ戦をしかけるは・・・。そんな中日本では東条英機内閣が成立。そしてあのパールハーバー・・・そう、そのまま太平洋戦争突入。母3歳の年は、日本にとって悲劇的な年となった。インパール作戦サイパンの戦い(日本軍全滅)、グアムの戦い(日本軍全滅)、レイテ島の戦い等で相当の痛手を負った。また、そんな最中東南海地震が東海地方を襲い、1200名強の死者・行方不明者が出た他、戦争のまっただ中に軍需工場の多くが壊滅的な被害を受けたのである。そして母4歳の誕生日8月15日、ポツダム宣言を受諾し、ようやく太平洋戦争が終結したのだ。翌年、憲法改正草案要綱(主権在民天皇象徴、戦争放棄)発表、日本国憲法が公布された。ほか、極東国際軍事裁判所開廷、ひめゆりの塔建立、ソ連スターリン首相就任、米国によるビキニ環礁原爆実験がこの年である。母5歳、父13歳。

この悲しい時代を乗り越え、日本は急激な経済発展を遂げる。1953年(昭和28年)テレビ局が開局され、白黒テレビが国民に普及しはじめる。カラーテレビが世に出るのはそれから7年後の1960年(昭和35年)、父27歳、母19歳の時である。

それを考えると、私が生まれた時代がいかに平和で恵まれていたことか。山本リンダがどうにも止まらなかったり、吉田たくろうが結婚しようと喚いていたり・・・。テレビではアニメが当たり前の時代に入っていたのだから。妻が生まれる頃には輪をかけて娯楽三昧の世の中、沢田研二、ピンクレディ、キャンディーズ。映画で言えばロッキーやスターウォーズがこの頃。緊張感のあるニュースと言えば青酸入りコーラくらいか・・・。

恵まれた時代に生まれたことには素直に感謝すべきだが、「どのような歴史の上に今があるのか?」を忘れてはいけない。

ぼーっとしていれば知らずに生きてゆけるかもしれない時代。知ろうと思えばいくらでも知ることの出来る時代。

こうしてみると、父母を育て上げた両祖父母も相当凄いな。